■東京工業大学2類のユニークな後期試験

面接試験風景
後期日程試験では数学,理科,外国語の筆記試験が行われますが,これに加えて面接試験が行われます。面接試験と聞いて,「なぜ東京工業大学2類を受験しましたか」とか,「科学技術について考えるところを述べて下さい」といった質問を想像しませんか。しかし,東京工業大学2類の面接試験は,これとは全く異なるユニークでやり応えのある面接試験です。たとえば, といった試験を行っています。知識や学問的理解度ばかりを問うのではなく, など,筆記試験では評価できない能力を見い出そうとする試験なのです。 要するに教科書に書いていないような問題が与えられても,柔軟な発想で対処し,解決できる人を求めているのです。


どんな問題が出るのでしょう?

平成21年 面接試験問題(2009年3月13日実施)

 トレーの中に,チョーク15 本,カッター1個,黒色滑り止めシート2枚,ウェットティッシュ数枚,ゴーグル1個が置かれています。 これらのものを使って実験1〜3を行い,以下の問題I〜IIIに答えなさい。 ただし,カッターを使う時は怪我をしないように注意すること。 チョークを破壊する時は,必ず,ゴーグルを着用し,トレーの上で行うこと。 チョークの追加補充はできないので,計画を立てて実験すること。
実験1
チョークの両端に滑り止めシートを巻いて,図1のように,チョークを折り曲げて破壊しなさい。
実験2
チョークの両端に滑り止めシートを巻いて,図2のように,チョークをねじって破壊しなさい。
実験3
図3のように,チョークの中央部表面に,長さ10 mm程度,深さ0.5 mm程度の切れ込みを入れ, 実験2と同様に,ねじって破壊しなさい。 なお,切れ込みを入れるには,チョークをトレーの上に置き,カッターの刃をチョークに軽く押し当てて,チョークを転がすようにして刃を前後に動かすとよい。
図1: 曲げによる破壊図2: ねじりによる破壊


図3: チョークへの切れ込みの入れ方
問題I
実験1の曲げによる破壊と実験2のねじりによる破壊について,破壊の様子(破断面の形状など)を観察し,その結果を図示しなさい。
問題II
実験3において,切れ込みの方向による破壊の違いを観察し,その結果を図示しなさい。
問題III
曲げによる破壊とねじりによる破壊について, どのような方向の力がチョーク内部に加わった結果として破壊が生じたかを説明しなさい。

解説:平成21年度の面接試験問題を紹介しましょう。 この問題は脆性破壊(ぜいせいはかい)について実験を通して考えてもらう問題です。 ここでいう脆性破壊とは,材料が破壊するまでにほとんど変形せず,破壊する時には全断面をき裂が一挙に進んで壊れる現象のことを指します。 ガラス・陶磁器・岩石・ベークライトなどの破壊は脆性破壊です。 この問題は,脆性破壊する材料としてチョークを用い,その曲げによる破壊とねじりによる破壊から,どのような力によって脆性破壊が起こっているのかを思考実験してもらう問題になっています。

問題Iでは,チョークを曲げ破壊すると,図1(a)のように表面に垂直にき裂が進むことが分かります。 また,ねじり破壊をすると,図1(b)のようにらせん面を描くようにき裂が進むことが分かります。

(a) 曲げによる破壊(b) ねじりによる破壊
図1: 破壊の様子

問題Uでは,図2のようなねじりを加えた場合,(a)と(b)の切り欠きでは破壊しにくく,き裂も切り欠きから外れてしまいます。 これに対し,(c)の切り欠きでは,破壊する力が小さくて済み,き裂も切り欠きに沿って進むことがわかります。 ここで,逆方向にねじる場合を試してみると,今度は(a)と(c)が壊しにくく,(b)が壊しやすいことがわかります。 これより,ねじり破壊の場合は,ねじる方向によって壊れやすい方向があることがわかります。

問題Vでは,以上のことを踏まえて思考実験を行い,どのような力によって脆性破壊が起こっているのかを考察する問題です。 まず,曲げ破壊については,図3のように変形するので,伸びる側には引張りの力,縮む側には圧縮の力が働いていることがわかります。 そのどちらの力によって脆性破壊が起きているかは,これだけではわからないのですが,試しにチョークを引張って見ると,曲げ破壊と同じように破壊するのに対し,圧縮しても破壊しないことから,引張りの力によって曲げ破壊が起きていることが推測できます。

次にねじり破壊ですが,単純に考えれば,図4(a)のようにせん断の力が働いて脆性破壊が起こったとすることもできます。 しかし,この考え方では,実験Uのような切り欠きの方向による違いが説明できません。 そこで,ここからは発想の飛躍が必要となりますが,曲げにしろ,ねじりにしろ,脆性破壊としては同じ現象だから,その両者を統合して,より単純なモデルで説明できないだろうかと考えてみます。 すると,図4(b)のように,実際のねじり破壊におけるき裂の進展方向に対して,垂直に引張りの力が作用しているとすれば,曲げとねじりの両方を引張りの力によって脆性破壊したというように統一的に理解することができます。 なお,大学で勉強する材料力学という学問によると,このような説明の仕方が,実際に正しいことを理論的に示すことができます。

  

図2: 切り込みの方向とき裂の進む方向



図3: 曲げによる変形



図4: ねじりによる力のかかり方


平成20年 面接試験問題(2008年3月13日実施)

 トレーの中に,スライドガラス2枚,スリガラス(片面を粗く研磨したスライドガラス)2枚,糊付き紙片数枚,クリップ2個,油が入った容器1個,紙コップ1個,試験片の作製見本1個が置かれています。これらのものを使って実験1〜4を行い,以下の問題 T〜Vに答えなさい。ただし,実験は以下の注意を読んでからはじめなさい。
実験
試験片の作製:
スライドガラスとスリガラスを重ね合わせ,2枚のガラス板の隙間の間隔が連続的に変化するような試験片を,見本および図1を参考にして,以下の手順で作製しなさい。なお,試験片は2組作製できます。
1. スライドガラスの左上に糊付き紙片を1枚貼りなさい。
2. スライドガラスの紙片を貼った面とスリガラスのスリの面を端が合うように重ね合わせなさい。
3. 重ねたガラスの上部,右端から約2 mmの部分をクリップで挟みなさい。
観察:
4. 油が入った容器のふたを開け,図2のように試験片を容器の中の油に垂直に浸し,油の上昇する様子を油に浸した瞬間から約1分間観察しなさい。
図1: 試験片作製手順図2: 観察方法
問題I
観察した約1分間を初期,中期,後期に分けて,油が上昇する様子をスライドガラスの模式図を描いて示しなさい。
問題II
観察した約1分間の油の上昇速度を隙間の間隔と関連付けて理由とともに説明しなさい。
問題III
試験片が垂直方向に十分長い場合,さらに長時間経過するとこの実験で観察した現象はどのようになるか。理由とともに説明しなさい。

解説:平成20年度の面接試験問題を紹介しましょう。 この問題は毛細管現象について実験を通して考えてもらう問題です。

水や油のような液体にガラスの毛細管を垂直に立てると重力に逆らって液体が毛細管内を上昇します。 これが毛細管現象です。 皆さんはこのような現象を日常経験しています。 例えば,タオルの端を水につけると重力に逆らって水はタオルを上昇し,タオル全体が濡れた状態になります。 紙,土,砂などでも同様なことが起きます。 これは,タオル,紙などの繊維や,土,砂などの粒子間には隙間があり,それが毛細管の働きをしているからです。 毛細管現象は固体と液体の濡れや表面張力の作用により起きます。 ガラスに対して濡れ性の良い水や油などの液体に毛細管を垂直に立てると,毛細管内の液体/ガラス/空気の三相界面に働く表面張力の鉛直成分に相当する力により液体は引き上げられ毛細管内を上昇します。

この問題では,毛細管の代わりに,2枚のガラス板を重ね合わせ隙間を形成します。 このときガラス板の片隅に紙片を挟むことにより,隙間の間隔を連続的に変化させています。

問題Tでは,油が隙間を上昇する様子を約1分間観察します。初期,中期,後期に観察される典型的な例を図1に示します。

問題Uでは,観察した結果を隙間の間隔と関連づけて説明します。 上昇速度は時間とともに遅くなります。 これは隙間内の油の量が時間とともに増加し重力の影響が大きくなるためです。 また,隙間の間隔による違いを観察すると,重力の影響の小さい初期においては,大きい隙間は抵抗が小さいため,油は比較的速く上昇しますが,上昇した油の体積が大きいため,小さい隙間より早めに減速・停止すると考えられます。 ただし,最も隙間の大きい図中左端の部分は端面に壁がないため上昇は遅くなるかもしれません。

問題Vは,油が最終的に到達する高さを説明する問題です。油の上昇は,無限に続くのではなく,油/ガラス/空気の三相界面に働く油を引き上げる力と上昇した油柱の重力が,釣り合ったところで止まります。間隔が小さい隙間ほど重力の影響が少ないため油は高くまで到達します。

図3: 隙間を上昇する油柱の形状の変化


平成19年 面接試験問題(2007年3月13日実施)

 物質に光が当たるとその物質と光との間に様々な相互作用がおこります。たとえば,物質は光を反射したり,散乱したり,屈折したりします。また,ある有機色素は,ある波長(あるエネルギー)の光を吸収し,それより少し長い波長(少し小さいエネルギー)の光を全方向に発光します。その発光は蛍光と呼ばれます。
 皆さんの前には,色の違う2枚のアクリル板がおかれています。これらのアクリル板には有機色素が含まれています。板の表面に (A) と書かれたものは緑色の板で, (B) と書かれたものはオレンジ色の板です。これらのアクリル板について,つぎの問題(1)〜(3)に答えなさい。
問題1
アクリル板に有機色素が含まれていると,なぜ色が付いて見えるか,その理由を説明しなさい。
問題2
アクリル板に蛍光灯の光が当たると板の側面(4つの縁)が明るく見えます。その理由を説明しなさい。
問題3
下の図のように,2枚のアクリル板を厚み方向に重ねた状態で白紙の上におき,上面から蛍光灯の光(光源)を当てます。 図(a)のように「光源 → 緑色の板 (A) → オレンジ色の板 (B) 」とした場合と,図(b)のように「光源 → オレンジ色の板 (B) → 緑色の板 (A) 」とした場合で,見え方がどのように違うか説明しなさい。 また,なぜ見え方が違うか,その理由を説明しなさい。

解説: 平成19年の面接問題を紹介しましょう。高校生の皆さんは,物理の授業で,光の反射,屈折,吸収,エネルギー,様々な性質を習っていると思います。教室で習ったこれらの内容をもとに実際の物の見え方を説明することが問われています。

問題1
色素が白色光を部分的に吸収し,吸収されなかった光を私たちは色として認識するため,色が付いて見えます。

問題2
色素が吸収した光のエネルギーの一部が蛍光として発光されます。色素からの蛍光(自然放出)は全方向に広がりますが,板の表面に向かう蛍光の入射方向が板の法線方向に対しある角度を超えると全反射がおこり,その蛍光が板の中に閉じ込められます。閉じ込められた蛍光が板の側面から出ているため側面が明るく見えます。

問題3
見え方の違い
「光源 → 緑色の板 (A) → オレンジ色の板 (B) 」とした場合(図(a))は, (A) と (B) の両方の板の側面が明るく見えますが,「光源 → オレンジ色の板 (B) → 緑色の板 (A) 」の場合(図(b))では,オレンジ色の板 (B) の側面だけ明るく見え,緑色の板 (A) の側面は明るく見えません。
理由
色とフォトン(光子)エネルギーとの関係を考える必要があります。上板を透過した光のフォトンエネルギーEAと,下板の中の有機色素分子が吸収できるフォトンエネルギーEBとの大小関係を考えましょう。EAEBの場合,両方の板中の有機色素が励起されるため,両方の板の側面が明るく見えます。一方EAEBの場合,下板中の有機色素が励起されないため,上板の側面だけが明るく見え,下板の側面は明るく見えません。